ヤスミの日
 「黒羽君、朝ですよ?」
 窓にかかるカーテンの隙間から射し込む光。 起き出そうとした白馬を制するように抱きついて離さない快斗に、 白馬は困ったような困ったような笑みを向ける。
「……から」
まだ半分寝ているのだろう、ぼそぼそと呟く唇に耳を寄せ、聞き取れた言葉は「休日だから」。
「快斗……」
ため息混じりの声に、抱く力を更に強め、快斗は首筋に頭を埋める。
「だらだらしようぜ?」
先程よりは幾分しっかりした声で、くすくすと咽喉で笑いながら、自堕落を誘う声。 返事をする間もなく、耳元にかかった生暖かく湿った感触に、白馬は小さく体を竦めた。
「ダメ、ですよ」
「何が?」
「……朝、なのだから」
耳に、心地の良い笑い声。
「嫌がってないだろう?おまえ」
「だから、ダメです……」
憮然とした、呟きに近い否定。快斗は本格的に声を上げて笑った。 軽やかな、楽しそうな笑い声に、白馬が苦笑する。
「可笑しいですか?」
「勿論!」
間髪入れずに返答して、細められた快斗の目が悪戯っぽく光り、すうっと手が動いた。
「こら……っ!」
手首を心持ち強く掴んで行為を止めさせると、唇が重ねられる。
「……ん……っ」
掴んでいる手の力が弱くなり、抵抗がなくなった時点で、よくやく解放する。少し荒くなった息遣い。 僅かではあるが潤んだようになった瞳を見つめて、快斗は満足そうに微笑んだ。
「もう一眠り、しようぜ?」
「僕はそろそろ起きて、食事の支度をしたいのですが」
「だーめ」
「……お腹が空いているんです」
「?」
「昨日、夕食を取れかったでしょう」
「オレ、食べたけど?」
白馬の頬が、ピクリと動いた。
「僕は食べられなかったんです。誰のせいだと思っているんですか!」
「あ〜、そういえばオレだっけ?」
遅めの帰宅の後、シャワーを浴びて、これから食事を思った矢先の快斗の訪問。 久々と言うほどではないが、少しばかり間のあいた逢瀬となったためか、 快斗の勢いに引きずられるようにしてベッドへもつれ込んだ。
「うん、じゃあ今日は、オレが豪華な食事作ってやるから」
「……」
「だからあと一時間……」
「ちょっと、黒羽君!」
しっかりと白馬を抱き寄せて覆い被さったまま、くったりと預けられた身体。
 しばし、困ったような顔をしていた白馬だったが、
「まったく……」
ため息を付くようにそう吐き出す頃には、瞳に柔らかな光が戻っていた。
「快斗」
答えがないのを分かった上で呼びかけ、戯れるように手に髪を絡める。
「本当に、君は……」
クスリと笑って、しばらくはぼんやりとしていた後――――白馬もゆっくりと目蓋をおろした。



END



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